ニセ医者について

平成14年 看護雑誌「ハートナーシング」に掲載

テレビ番組になんとか鑑定団というのがあり、由緒ある品物の真贋を専門家が判定する。そして偽物であれば二足三文の値打ちもなくこきおろされてしまう。

一見、高価なもののように見えたものもいったん偽物の烙印を押されると何となく安っぽいものに見えてくる。今まで愛着をもっていたものであっても、偽物となると突然に冷たく扱ってしまう。

話は変わるが新聞などに『ニセ医者』が捕まったという記事が出ることがある。概してこれらの医者はよく流行っている町医者であり、何年来患者の信頼も厚く、親切でやさしく、よく話を聞いてくれるし、的確な薬の処方もして貰っている。患者の談では”あんなに人柄のよい先生がニセものだなんて信じられません”というコメントもつくものである。

ニセ医者の前職はいろいろあろうが、少なくとも医療職の周辺の職業に従事している経験から、ある程度は医者の仕事を学習しており、また医療の裏側の面もかいまみたに違いない。そして医者は儲かると結論し、いつのまにか『本職』になったのであろう。

彼らのほとんどは自分がニセ医者すなわち不法医療行為者であることを自覚しているから、へたな医療行為でバレては大変である。

このため診療には細心の注意を払っているにちがいない。決して無理な荒治療や、あやしげな治療法は用いない。常に患者の扱いは慎重であり、色々な訴えもよく聞いてやる。話術も心得ているし、自分の言動には特に注意をしたにちがいない。不当な利潤の追求に走らない。時には彼らも「研究」をして新薬にたいする知識もつけたことであろう。これらは臨床医師の理想的な診療態度ではないか。

一方、世の中には新聞を騒がせている悪徳病院がある。そこの院長は立派な医師免許を持った「本物」の医者である事は間違いないらしいが、その医療行為はまさにニセ医者にもとるものである。利潤追求のため専門知識を悪用して患者を犠牲にするという行為である。周辺の住民はあそこは不良病院だ、あの医者はセコイ医者だと罵倒する。

患者に人気のあるニセ医者が出現するということは、いかに一般の(いわゆる本物の)医者が患者には不人気であり、患者の求める医療がなされていないかの証明でもある。そこがまさににせ医者のつけいる隙間であり、本物の医者はおおいに彼等に教えられる面がある。

医療はサービス業の部分でもあるのだからニセ医者の診療態度は,おおいに見習わなくてはならない。

それにしても『ニセ看護婦』というものは存在するのだろうか、あまり聞いた事がない。看護婦の仕事はきついばかりで儲けにならないためだろうか、あるいは素人のニセモノが侵入できるほどの仕事のスキがないためだろうか。きっと後者であるに違いない。