体内のアラーム機構について

重要な建物には外敵の侵入に備えて、あるいは火災など緊急時に備えて非常を知らせるアラーム装置が備わっております。これは日常ではあまりその存在を意識しなくても、いざという時には大いに役に立つものです。 人体にも多くのアラーム機構がついています。体内の諸機能に何らかの異常が発生すると、各臓器に綱目のようにはりめぐらされている神経を通じて脳に信号が入りどの部分のどのような異常であるかを判断します。脳の中枢神経がこの信号を感じると直ちに防御あるいは治療の作業が始まります。 たとえば細菌の侵入があると、痛みや、発秦というアラームとともに白血球の集合や、免疫力に因ってこれを自分で治すようになっていることはよく知られたことです。 さて、心臓においても数々のアラーム機構があります。その中でも最も大切なのは心筋梗塞の発生を知らせるものです。 これは心臓をとりまいている冠状動舵といわれる細い動脈の内側にコレステロールなとがつまり、血管が細くなり、血流が途絶えかける時に起きる病態です。体内のアラームとしては非常に強い痛みを起こします。 この痛みは「胸を象に踏みつけられたような痛み」とか、「おおきなべンチで挟まれたような痛み」とか、時には「ああこれで死ぬかも知れない」と思うような強烈な痛みであります。こんな痛みが歩行中に起きると、痛みのために、もはや歩くことができません。
思わず立ち止まり、そしてどこかに座り込んでしまいます。  運動をすることがかえって心臓に過剰な負担となるときは、このようにして痛みというアラームが働き、運動をストップさせるようにそして最も楽な心臓の動きになるように体内の防御機能が働くようになるのです。
 ところがこのアラーム機構がうまく働かないことがたまにはあります。心筋梗塞がおきて心臓は大変な事態になっているのに、これを脳神経が認識しなくなることです。すなわち、心臓が悪くなっても、例の狭心痛発作が現れてこないのであります。これは「無症候性心筋梗塞」という病名で呼ばれます。 心臓病の人が誰も恐れるあの狭心痛がおきないことはなんとありがたことかと思うでしょうか。そうではありません。 
ちょうどアラームの誤動作のためにうるさいといってスイッチを切ってしまったようなものです。アラームが鳴らないからといって安心はできません。どんな危機が目前に迫っているのか知らないでいるようなものです。 この無症候性心筋梗塞というのは決してめずらしい病気ではありません。糖尿病や、神経の炎症によって起きることもあります。自覚症状のないときにも何となく胸の違和感があり、心電図一に異常波形が現れて、診断がつくこともあります。
 体内にあるアラーム機構は、そのわずかな変化も信号として中枢部に送られてきます。異常サインが現われると、これに対しては何らかの対策をとらねばなりません。しかし自己の体に対する感覚の鈍い人、日々の仕事の忙しさで自分の体を思いやるゆとりのない人、などは大切なアラームのメッセージを無駄にしていることになります。時には静かに自分の体に注意を向ける感覚を鋭くしてみましょう。日々の仕事に忙しい方も、時にはそのようにしてアラーム機構の点検を心がけましょう。