身体の機能について

生物は何億年という太古の昔に、海水の中から原始的な植物として発生してきたらしい。これが少しずつ変化し、進化してやがて地球上に原始的な動物が生まれるようになった。さらにこれから永い年月を経て、高等な動物が現れて来たものであると言われている。

我々人類も地球上の一生物であるから、その祖先は同様の進化をたどったものと想像できる。すなわち人類のルーツは海であるということになる。このことについては、多くの学者が研究をし、書物にも表されているのであるが。その証拠の一つとして、我々人間の身体の中を流れている血液の組成は海水の成分とほとんど同じであるということがあげられている。血液の中の血球(赤血球や白血球など)を除いた部分は血漿と呼ばれる液体であるが、この成分にはナトリウム、あるいは塩素といったものが大部分を占めているのである。海水も塩水といわれるように、その成分はナトリウムと塩素が大部分でありその他少量の物質が溶けているのである。

さて人間の血液と海水の成分を詳しく調べてみると、人間の血液の濃度が海水よりも淡いことが知られている。逆に言えば血液よりも海水の方が濃いとも言える。この両者の濃度の差異はどうして生じたのでしょうか。これは太古の昔、生物は海水の環境と同じ条件に保つため身体の中に閉じ込めた海水すなわち血液を常に濃度が変わらないように、うまくバランスを保つ調節機能があり、この機能は親から子へと何世代を越えてもかわることなく延々と受け継がれてきたものである。そして現代の人類の身体の中にも変わることなく昔と同じ血液が流れているのである。一方、海水は陸上から流れ込むいろいろなもの、あるいは海中の生物の死骸などによって永い年月の間にだんだんと海水に溶け込むものが増えてきて原始時代の海水の濃度よりも濃くなってきたものと考えられる。

人間というものはうつろいやすく、変わりやすいものだ。それに比して大自然というものは動かず、変わらず、安定したものであるとして、この両者はいつも比較されるものである。たしかに人間はその歴史の上で大きく変わっているようである。文化は発達し、知識は増え、大昔の人間の生活に比べると格段の差で発展し変化している事は事実である。しかしこれはあくまでも人類のたどって来た表面の能力の変化である。身体の中身はおそらく何の変化もないのではなかろうか。縄文時代の人々と現代人の身体の中身は心臓の形も、血液の成分もきっと同じであったろう。あるいはもっと遠い昔から人間の身体には常に変わることなく恒常性をたもつような機能が備わっていたのである。

人は生まれごく短い命の間に死んでいくものであるが、生まれ代わり、死に代わりこの何万回もの繰り返しの間にも、何億年もの昔の海水と同じ条件をいつも体内に貯えることができるとは、生物に与えられた機能は計り知れないすばらしいものであると驚かずにはいられない。