ペースメーカについて

いよぎんIRC誌 1998年掲載

心臓は一回心拍動があれば約70ccの血液を動脈内に送り出します。

そして心拍動は1分間に約70~80回鼓動しているので1分間には5~6リットルの血液を体内に送り込んでいることになります。 脈拍数は体のいろんな条件によって微妙に変化するものでありますが、運動をしたり興奮したりすると体の中のアドレナリンという物質が分泌されて、これが心臓の神経を刺激して脈拍が速くなってきます。

この結果運動時には1分間に体に送り込まれる血液の量は安静時の2倍にもなります。体に必要な血液の量はこのように脈拍数の増減変化によってコントロールされているのです。

心臓の病気のうちで心臓の神経が切れてしまう疾患があります。

心臓神経ブロックといわれます。心筋梗塞や動脈硬化の結果として病気が発生してくることもありますが、多くは原因不明です。この病気になると心臓の拍動数が極端に少なくなってきます。運動や興奮にはかかわりなく脈拍数が40以下になります。このため体内にめぐる血液の量も少なくなります。

結果として脳に流れる血液量も減少するため自覚症としては軽症ではふらつきがあったり、重症では意識の消失発作が起きることがあります。

診断には心電図で検査すれば確定できますが、さらに精密には24時間の心電図検査をします。他の心臓病に比べれば簡単な検査で診断がつきます。

治療としてはペースメーカ移植手術法が最も一般的であります。これは心臓の中に電線のコードを入れてこの電線に小さなバッテリーをつないで脈拍を自由に調節するものです。バッテリーも皮膚の下に入れてしまいますから、この手術の後 入浴も運動も可能です。一般の生活は何でも可能になります。

このペースメーカの原理は心臓の表面をごく小さな電気でごく短時間刺激すると心臓全体が1回収縮をするという性質を応用したものであります。1分間にいくらの脈拍数にするかは自由に変えることができます。バッテリーも寿命がありますが約10年はもちます。10年経つと新しいものと入れ替えをします。

ペースメーカの機種は年々新しいものが開発されています。マイクロチップのコンピュータが使用されているため強い磁力に逢うと機会の設定条件に影響を受けることがあり注意を要します。

ペースメーカを入れる患者さんは年々増加しています。多くは高齢者でありますが、中には赤ちゃんにも入れることがあります。これは生まれつきに心臓の神経が切れている病気があるからです。

さて医学以外でもペースメーカという言葉が使われます。たとえばマラソンのトップ集団の中の一番に走っている人の事を言います。あるいは停滞している産業界ではベンチャー企業もペースメーカとなって経済発展の牽引効果があるでしょう。

集団の動きが遅いときには先頭を行くペースメーカによるリズムが刺激になって後続の集団が奮発していずれはペースメーカを追い越してよい結果を生むことが期待されます。

スポーツや産業界ではペースメーカは一時的な発奮剤として用いられることが多いのですが、心臓病におけるペースメーカ治療ではいつまでたっても切れた心臓神経の回復は得られず、一生涯ペースメーカにお世話にならなくてはならないという厳しい現実があります。