“モニター”について

平成13年 看護雑誌「ハートナーシング」に掲載

どこの病院のICUでも近頃は立派なモニターが備わっています。

心電図はもとより、動脈圧、肺動脈圧、心拍出量、酸素飽和度、体温などあらゆる循環動態の情報がこのモニターの画面に色彩も鮮やかに表れています。

我々はこの情報から瞬時に現在の患者の病態を読み取り、新たな治療の方針を立てようとします。さらに最近のモニターでは過去にどのような経過であったかを記憶する装置がついており、今後の進むべき変化を予測さえ出来るものになっています。

新しく職場に入った看護婦さん達はこれらのモニターの表されている情報から、やれ心電図の波形がどうの、末梢血管抵抗がどうの、肺機能がどうのといろいろな数値を学習するのが大変です。

これら電子モニターは患者の表面のみで観察していても分からない多くの体内の変化を数値として現してくれるものであり、ICUのような重症患者を扱う部所では重要な診断手段であります。さらに時代が進めばもっと機能が向上して生化学的なデータの変化もモニター画面に現れてくるでしょう。

 モニターの画面を判読をして、時間的に変化する観察のデータを重ね客観的に分析することは、患者状態を把握する為にはもっとも近代医学的な手段であると考えられます。

もはや患者を表面から観る古典的な看護観察はICUで得られる情報としては役に立つものは何もないような時代になったのでしょうか。

そうではありません。どんなにモニター機能が向上しても患者の「気持ち」とか「安心感」とか「苦痛」を数字で表すことはできません。

そしてこれらの情報も患者の管理には大変重要な要素となるのであります。

初心者はモニターに現れた数値やグラフを判読することのみが重要となって、データの変化のみに熱中するあまり本物の情報源である患者本人の姿を見失ってしまうことになりがちです。

集中監視モニターで心電図を見ていると突然にVT波形があわられました。

看護婦が病室に飛んで行ってみると患者は食後の歯を磨いていたという笑えない実話がありました。

また最近ではモニターでの異常波形を見ておきながらこれはノイズであろうと放置して重大な事故となった例もあります。

このようにモニターがすべて患者を表していると信じてしまうと情報を過信したり軽視することによってとんでもない過ちを生じることになります。

情報の過剰な時代になってモニターシステムが如何に精巧になってもモニターは決して全ての真実を表しているものではありません。

現代の医療は「病気を見て病人を診ない」という言葉で揶揄されることがありますが、これはモニター過信の現代医療を皮肉って言われる言葉であります。
 
臨床の現場で働く我々は、その情報のもとになっている本物の観察こそが重要であることを肝に銘じておかねばなりません。